わたしは、雨降りの夜がすきです。
もちろん晴れの夜や風の強い夜、雪降る夜も趣があります。
雨降りの夜といってもさまざまです。
ざぁざぁと降り付ける雨もすきです。
しんしんと蒸せる雨もすきです。
ごぅごぅと風や雷をともなう雨もすきです。
でも、しとしとと降る雨の夜が一番すきです。



雨降りの夜は、電気を消します。
できれば真暗な闇の中にいたいものですが、今のじだい、そうはいきません。
ですから静かに瞼の帳を落とします。
そうすれば山椒魚の仰るとおり、何処までも広い闇の中に漂えるからです。


そうした中では、様々な感情がふつふつとわいてきます。
はじめはかならず、負の感情です。
少し落ち込んでいるような気持ちになりはじめます。
そのあと、嫉妬、憤怒、羨望…あらゆる負の感情があらわれます。
そのなかでふと、正の感情が顔を出してきます。
たのしい、うれしい、おかしい…などです。



そのうち正と負の感情がだんだんといりまじってくるのです。
そうすると、こころが決壊していく感じがしてきます。
それにともなって、のうみそがとけだしていきます。
残るのは、欲、だけです。
それも、こわしたい、という欲です。
対象はなんでも構いません。
モノでも、ヒトでも、ジブンでも…
しかし欲だけしか残らないので、行動には出れません。
ただ闇の中延々と降る雨に耳をかたむけつづけるのです。




わたしは、雨降りの夜がすきです。